キューバ危機問題も一段落し11月に入りました。大学の留学生支援事務所はフレンドシップツアーと称して留学生の為に休みを利用してシアトル近辺のツアーを組んでくれます。その一つにシアトルから南にやや下った田舎町チャハリスの家庭でThanks Givingの休日を過ごす催しがありました。一時間程汽車に揺られてチャハリスの駅に到着すると留学生一人一人に世話を割り当てられた家族が迎えに出ていました。私を迎えてくれたのはかわいい高校生の女の子とその弟を両腕に従えたウイリー夫妻でした。その女の子とはその後しばらく文通をしていたのですが今では遠い昔の話となってしまい名前も思い出せません。
招待された留学生達は一旦それぞれ世話になる家庭に連れて行かれ一休みした後、また全員集合し早速町の見学が始まりました。最初は立派な観客席の着いたアメフトのスタデアムに案内されしばし高校生のアメフト試合の観戦です。ルールが良く理解できませんでしたがピチピチした女子高校生の躍動あふれるチアガールの応援は目に焼きつきました。次に連れて行かれたのは町の乳業製品加工工場です。そこでご馳走になったアイスクリームの味は格別でした。
夜になるとツアーに参加した留学生全員が高台にある町の有力者の豪邸に招待されました。ハリウッド映画でしか見たことがないようなゴージャスな館でプールには水が青々とたたえられています。シャンペンが抜かれ町のお偉方の歓迎挨拶が終わると園遊会となり留学生たちと町の人達の歓談が続きます。 宴もたけなわとなった頃歓迎会のホストであるこの館の主が近づいて来ました。「一つここら辺で空手か柔道の術を披露してもらいたいのだが」と言うではありませんか。大学生時代に体術と言う柔道と剣道をミックスしたような武術をしばらく習った経験はありましたが黒帯を取っていたわけでもなく、かろうじて受身が出来る程度の私が何故指名されたのでしょう。日本からの留学生の中には2段とか3段の黒帯の猛者がいたのです。はたと気が付きました。彼等は背も高く日本人離れした体格の主だったのです。これだ、私は背も高くなく小柄な方です。柔道は小さいものが大男を投げ飛ばすと言う妄信があったのです。そこで小柄な私と現地のレスリング高校チャンピオンとを戦わせると言う私にとっては至極迷惑な話が出てきたのでした。
そっと町長の後ろを見ると体格のいい若い男が立っていました。無下に断れば親善パーティーの雰囲気を壊してしまいかねません。といって体格の良いレスリングチャンピオンなどどう考えても倒せるわけがありません。しばらく途方にくれてシャンペンをお替りしながら心の準備をしている振りをして時間を稼ぎました。それでも館の主は諦めません。またもや催促です。「タタミ有りますか?」とっさに出た私の言葉。「えっ、タタミ?ないね。ここのフロアじゃだめかね?」そういわれて指差されたフロアを見ると一面大理石です。「こんなところで投げ飛ばしたら受身を知らない相手の方は大怪我をしてしまいますよ!」とここで一気に上手に出てみました。するとどうでしょう町長は件の高校生の元に行き何やら説明していました。しばらくして戻ってくると「分かったわが町の高校レスリングチャンピオンを傷つけるのはやめにしよう」と言ったのです。その後のアルコールのなんと美味かったことでしょう。
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