横浜を出て8日目の早朝ざわめく物音にベッドから飛び起きました。デッキに駆け上がります。未だ薄暗い中地平線上にうっすらと黒い影が見えました。「陸地だ!」と誰かが叫んでいます。じっと目を凝らして地平線を見続けていました。その内、東の空に浮かぶ雲が少しずつピンク色に染まり始めます。陸地がはっきりした姿を現すのにはそんなに時間がかかりませんでした。気がつくと周りには数多くの小船が朝焼けで眩しいほどの海面に揺れています。目に入る光景がすべてピンク色に染まり眩しかった。素晴らしい朝焼けのバンクーバー湾でした。「ついに見た素晴らしきかな新世界!」と日本の両親に電報を打ちました。思い出深い外地への第一歩でした。
港には日令丸の親会社駐在員が出迎えにでていました。幹部船員と我々二人の船客はダウンタウンの中華街に夕食の招待を受けました。しこたま紹興酒をご馳走になっていい気分になったところで名所に案内すると言われました。暗闇の中我々を乗せた車は港を見下ろす小高い丘の上に出ました。周りを見てごらんと言われ暗闇に目を向けると数え切れないほどの車が駐車しています。見る限りどの車内でも人目をはばからず男女抱き合っている姿がシルエットとして映し出されています。いろいろな形での愛の営みが繰り広げられているようです。ほとんど人前でのキスシーンなどには出くわした事のなかった者にとっては強烈なカルチャーショックの始まりでした。
同じ夜、もう一つのショックを受けることになりました。案内役の駐在員兼運転手の運転振りです。かなり酔っ払っていたらしいのですが千鳥足もいいところで身体が腑抜けになり真っ直ぐに歩けないばかりか運転席に座ってもエンジンキーがどうしてもキー穴に入られない状態です。人の助けを借りてやっとエンジンをスタートさせますが酩酊状態でした。蛇行運転で乗せられている者は生きた心地がしません。人生の先輩である上級船員たちも停泊中の船まで送ってもらうので何も言わず黙って同乗したままです。しばらくして環状フリーウエーに入り込みました。そこでとんでもないことに気が付きました。真正面から皓々とヘッドライトをこちらに向けて何台もの車が突進してくるではありませんか。どんなによく見ても正面から来る車は我々の車の走っているのと同じレーン上を走って来ているのです。我々の車はハイウエーを逆走していたのでした。何とか港の日令丸に戻ったときは皆ぐったりしていました。
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