毎日朝6時には起きて豪邸の主人夫妻のために1階のキッチンに駆け上がりコーヒーの準備をします。毎朝6時に起きるなどと言うのは日本にいた頃には考えられないことでしたが慣れとは恐ろしいもので暫くすると3階の寝室でご夫妻が目覚めた気配(具体的にはベッドがコトッと音を出す)で目が覚めるようになったのです。コーヒーの準備が終われば直ぐに大きな飼い犬を散歩に連れ出し犬が便をするまでゴルフ場の中を歩き回り犬の用便が終わるや否や家に連れ帰って大学へ自転車に乗って出かけます。大学から戻ればスーパーマーケットへの買い物、庭の草花の手入れ、植木の刈り込みなどで休む暇のない毎日です。
又、夜は皿洗いをすることになっていました。ディッシュウォッシャーはあったのですがある程度食器を洗っておかないと完全に汚れが取れない場合があるということでディッシュウォッシャーに入れる前に軽く洗っておくのです。毎週土曜日は朝から夜までかかってお城のような家の地下室から4階のアトリエまで家中の大掃除を一人ですることになっていてこれが又大変な仕事でした(何しろ全部でトイレ浴室が5ヶ所もあったのです)。十数室ある部屋のふかふかした絨毯に真空掃除機をかけることから始まり、家具の艶出し、洗面室のタイルのたわしがけ、トイレの便器磨き、そして時には便器にへばりついた便をたわしを使っての除去、窓ガラス拭き、ブラインドのひだ1枚1枚の裏についているほこり取りはとても根気の要る泣きたくなる作業でした。 窓拭きにしても低い階の窓はまだしも3階、4階となると身体を半分外に乗り出して外側も磨くのですから電信柱の上に登って作業しているようで高所恐怖症の私には震えが来てしょうがありません。他の留学生が休みを楽しんでいる土曜日はそんなわけで私にとっては一番大変な日だったのです。
それ以外にも月に一度大きな部屋一杯に集められていた銀の食器類を特殊なクレンザーで磨く日が決められていて、これがまた大仕事でした。銀食器は一ヶ月もすると表面が酸化して黒く汚れてきますが、この汚れをクレンザーで磨くとその黒い銀特有の汚れが磨いている手のしわの溝に染み込んでそれがどんなに石鹸で洗ってみても一週間はとれないのです。この豪邸はプライベートゴルフ場の中にあったので主人夫妻は年に何回かは100人前後の客を招待しては園遊会を開いたり、また夫人の方は数人の友人を招いてブリッジをしたりゴルフをしたりしました。そんな時は臨時にバーテンにさせられたり、ウエイターにさせられたり、キャディーの役をさせられたのです。確かに大変な日々ではありましたが私は夢中で全部をこなしていったのです。
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