Mr.リチャードソンは大手製紙会社の営業部長でした。学生時代はアメフトの全米代表選手にもなったことがあると言うだけあり立派な体格をしていました。夫人の方も大柄で漫画のブロンディーのような金髪で丸顔でした。二人は良く友人を招いて園遊会を開いていました。園遊会が近づくと私にバーテンの手伝いをさせるためカクテルの作り方を教えるのです。
3時頃に大学から戻るとDen(奥まった小部屋)に来るように言われます。Denに行くとテーブルにジン、ヴォッカ、トニックウオーター等の瓶が並べられています。但し中身はすべて水です。日本ではシェーカーを振ってよくカクテルを友人に振舞ったものですがアメリカに来てバーテンの訓練を受けるとは思ってもいませんでした。夫人が椅子に座って「ジントニックを作って」、「マティーニを作って」と指示します。アメリカではあまりシェーカーは使わずメジャーを使ってベースとなる酒と混ぜるべき添加物を適量量りグラスに注ぎかき混ぜて完了です。混合比率を間違えると「それではダメ!」と言われやり直しさせられます。中身はすべて水での練習なので失敗しても問題ない訳です。
実際の園遊会にはプロのバーテンダーが雇われるので私の出番はあまりありませんがウエイターとして飲み物の注文をとって回るのである程度の知識がなければならないわけです。リチャードソン家のパーティーに集まる人達が注文するのはウイスキーのオンザロックかジントニックかマティーニぐらいでしたが私が苦労したのは飲み物の注文をとることより注文した人のところに飲み物を間違いなく届けることでした。何せ広い庭での立食パーティーです。人々はいろいろな人と話すため動き回ります。皆似たような顔をしていて服装も似ているのです。動かないでいてくれても区別が出来ないのに動き回るのですから注文された飲み物をそれを注文した人に間違いなく持って行くのは至難の業です。
日本では飲み会等を開く場合はサークルの仲間とか小学校や中学や大学時代のクラスメートとか職場の仲間とかある特定のグループだけで集まるのが普通ですがアメリカのパーティーはホストにあらゆるつながりのある人々を呼ぶのでいろいろなグループの人間がごったになります。そこで友達の輪がどんどん広がってゆくので中々楽しいものです。
そんなわけで前もって出欠席の返事を貰っていても当日になって出席者の数が大幅に狂うことが起こりうるのです。リチャードソン家のパーティーでも大誤算が起こったことがあります。クリスマスパーティーで60人前後の参加者を予測していたところ実際に参加したのが40人強になったのです。被害を蒙ったのは私でした。七面鳥の料理が10数人分余ってしまったのです。七面鳥も少量グレービーをかけて食べるのは美味しいこともありますがリチャードソン夫人に来る日も来る日も七面鳥を食ってくれと言われ続ければどうなるか。一週間もこの拷問が続いた頃から七面鳥にうなされるようになったのです。
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