気候も春めいて暖かくなって来た頃エキからボッブ、ジョーンと共に家に招待されました。誰かガールフレンドを連れて来いと言うのです。未だガールフレンドなどいませんでしたので困ってしまいました。そこでふと思いついたのがクリスマスのスキー合宿で知り合ったドイツから来ていたギゼラです。ドイツ人の家庭に行くのだからドイツ人女性がいいかなと言う単純な発想でした。ギゼラに連絡を取ると「いいわよ」と二つ返事です。
ホストファミリーのアンに話すと「良かったわね。初めてのデートでしょ。私の車を使いなさいとヒルマンの赤いコンバーティブル車を貸してくれました。真っ赤な小型オープンカーに金髪の女性を助手席に乗せ新緑の郊外を走るのは気分のいいものでした。シアトル郊外のエキの家に着くと既にボッブとジョーンは来ていました。しかし二人ともガールフレンドは連れてきていません。エキは私がドイツ人のギゼラを連れて現れたので一瞬びっくりしたようでしたがすぐにギゼラと打ち解けて話し始めました。
そこへエキの父親が現れました。いいものを見せるからといって私を地下室へ案内しました。そこは研究室と言うか実験室と言うか部屋の真ん中には宇宙を思わせる様な模型があり地球のようなものが空中をぐるぐる回っていました。エキの父親は人工衛星エコー(私が日本にいるときに東京の夜空でも肉眼で見ることが出来たアメリカが打ち上げた話題の人工衛星)開発技術者グループの一員だったそうです。その彼が私に向かって「私はこの装置を使ってアインシュタインの光速度不変(いかなる慣性系から見ても)の原理が間違いであることを証明した」と言いだしたのです。もし、それが本当なら物理学会を揺るがす大問題になるはずですがそれ以後そんな話はどこからも聞こえてきませんでした。エキのデータ捏造を知った後でしたので「この父にしてこの子あり」かなと思ったりしました。
ドイツ風の昼食をご馳走になった後、雑談になりました。エキは自作のアンプを持ち出してきてボッブに見せ何か意見を求めていました。当時のアンプには真空管が使われていました。そんな時エキが突然私に向かってチラッとボッブに目をやり「ボッブはこれだから注意しろよ」と言ってアンプから取り出した真空管を口にくわえる仕草をしたのです。まさか、ボッブにはガールフレンドがいた筈です。しかしその日ボッブもジョーンもガールフレンドを連れてきていませんでした。
それから数日たったある日、ジョーンがリチャードソン邸のわたしの地下室に尋ねて来ました。数学の宿題を一緒にやってくれと言うことでした。ジョーンが一人だけで来たのは初めてでした。暫く一緒に宿題に取り組んでいましたがその内異様な雰囲気に気がつきました。ふと顔を上げてジョーンを見ると私を見つめているのですが目が死んでいます。催眠術に掛かったように空ろなのです。私は気味が悪くなり表に飛び出しました。「ブルータス、お前もか」の心境で暫く心臓の鼓動がなりやみませんでした。
(尚、ギゼラはその後間もなく家庭の事情で国に戻って行きました。)
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